ドンマイ

『あねとあなた』さんの作品

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『一尺の恋』

作 あねとあなた

――― これは、実話を元に私の考えた恋物語だ。
  曾祖父と曾祖母が結婚する前、プロポーズするまでの話だ ―――

曾祖母の葉月はとても美しいと評判で地元では町一番の美人、“小町”と呼ばれていた。 だが、葉月はとても背が高く、周りの人々はどんなに美人だと思っても、いつもしまいには、 「あれで、一尺せめて五寸小柄ならいいのに。」と皆が言うのである。 いつも、いつも「背が小柄なら」と言われ続けたためか、 葉月はいつしか、気の強い、意地っ張りな性格になってしまった。 そして、自分を美人だと思うあまり、いつも、計算高く、将来は、少しでも良い条件の男と結婚してやると心に決めていた。 外に出る時は、玄関をちょっと掃除するような時でも、いつも身嗜みを整えていた。

「葉月さん、今日もキレイですね。」
野菜売りの静一が、リヤカーを引きながらあいさつする。静一は博多から直方へ仕事に来ている売り子である。 私の曽祖父である。父の冬治が八百屋をしているのだがこの町に知り合いがいて、ここで暮らしている。小柄で働き者だ。
「今日はふきのとうが美味しいよ。」
気が強く、意地っ張りになってしまった葉月は笑いもせず
「つくしの煮物付けてくれるなら買うよ。」
と高飛車に答える。
静一は、明るく笑いながら、住み込み先の御上さんが作ったつくしの煮物の入った壺を開け
「私のところの煮物美味しいでしょう。」
といいながら、おたまでつくしの煮物を見せた。
「弟達が好きなのよ。私は背が伸びそうでつくしなんか食べたくない。」
と言い捨てる。
「背が高い女性、私好きですよ。だから葉月さんの事も好きです。」
のんびりした声で静一が言うと
「私は金持ちで背の高い男の嫁にならなってやる。」
といつものように言う。静一はペコリと頭を下げてまた野菜を売り歩く。

葉月は、今度の日曜日、お見合いをする。 葉月が背が高いと知っても断らなかった上になかなかの稼ぎのある男で葉月に取ってはどうしてもまとめたい縁談だ。
当日、しゃれこんで見合いに臨んだ。相手は一目立ち姿の葉月を見て
「葉月さん、おキレイですが、私は自分より背が高い方は…。」
と断られてしまった。

――もう、何度断られただろう。幼いころは背が高くてもなんとも思わなかった。
 女友達には、「葉月きれいな顔してるから、早く結婚できるよ。」と言われていたのに…

玄関をいつもどおり、キレイに髪を結い上げてから掃除していると、静一がひょっこり現れた。
「いちご食べませんか、お一つ勉強させてもらいます。」
と葉月の好物であるいちごを静一が差し出すと、葉月は無言で食べた。 まだ悲しくて涙が出そうだったから、「美味しい」とつぶやいた。

――背が低ければ、今頃赤ん坊が生まれていちごでも食べさせていただろう。

最初の見合いからは、もう五年たっている。
「葉月さん。私と博多に行ってくれませんか。」
静一がいつもより固い声で言った。
「父に、実家へ帰るように言われました。葉月さん、私の傍に来てください。」
静一が実家に戻る?
「私は背が高すぎる。博多の親御さんが嫌がるだろう。」
言いながら泣きそうだった。静一は、金は無いが、仕事熱心で優しい。
「わ、私は、背が高すぎるし、静一さんは背が低すぎる。隣でいるとのみの夫婦って言われるだろう。」
しゃくり上げるような声で葉月は上を向く、静一はいつもの声で
「葉月さんの背は五尺七寸ですよね。」
背のことに触れてきたのできつい声で、
「そうよ。いつも五寸背が低ければって言われる。」
静一は葉月に短く太い大根を見せながら
「私の背丈は四尺七寸私も五寸高ければと言われてました。でも、一尺ってこの大根くらいです。 一尺背丈が違ってる夫婦がいたっていいじゃないですか?この大根は値段は安いけどりっぱにおいしい大根です。」
得意げに説明する静一を見て、葉月はのみの夫婦でもいいかなと思った。そして、静一の手にそっと手を添えた。


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